DTP

これからの動画制作について考えてみた

2021.11.12


時代の変化と動画制作

時代は紙媒体からIoT と言われてずいぶん経ちましたが、紙文化の中で長くスキルとノウハウを培ってきた私のようなロートル世代では、未だ日々の生活での実感との乖離幅は大きいと言わざるを得ません。

といいつつ出版業界をはじめとするB to Cの環境下では、ここ数年で随分と様変わりしているように感じます。街中の書店は次々と姿を消し、台頭しているのはデジタル書籍です。電車の中の景色は昔は週刊誌を広げる若者の姿を多く見かけたものですが、今では若者が広げているのは小さなスマートフォンの画面です。

そんな生活環境の変化の中、私たち制作編集を生業とした「商品カタログ」や「マニュアル」などの姿も少しずつ変化しています。今まで印刷物と動画の相関関係など考えることもありませんでしたが、これからの時代にどんな影響があるのか考えることも必要なのかもしれません。

今日は、当社とお付き合いのある映像制作会社のF社長に「これからの動画制作のあり方について」伺ってみました。

A:今日は忙しい中お時間戴き感謝です。早速ですが御社の主要業務である動画制作に関して、ここ最近での業務内容の変化や今後のことなどをお聞かせ戴けますか?

F:こちらこそありがとうございます。当社は企業のプロモーション映像や、ウエビナー、展示会などの企画・取材・撮影から編集まで一環体制で映像サービスをお手伝いさせて戴いています。最近ではオリンピックの取材や撮影などにも行ったりしましたよ。

スマホからの動画視聴

出典:ニールセン 2019 年上半期のデジタルメディアの利用動向調査より

A:オリンピックですか?大いに興味がありますが、まずは、御社でこの数年、一番変わったと思うことは何ですか?

F:そうですね。当社の場合は今回のコロナ禍の影響でそれまでの展示会の映像制作の依頼が減ったこと、そしてリモートでも映像が提供できるようなインフラの整備を求められるようになったことですね。具体的にいうと地方での取材なども制限があるため、スマホを使って現地のスタッフやクライアントが自分たちで収録を行い、東京や大阪の拠点でライブ配信したり、その場で質疑応答したりするような企画を立てお手伝いをしたりしています。

A:スマホで・・・とのことですが、視聴者もスマホで見るんですか?

F:はい、そうなんです。スマホやタブレットで閲覧する機会が増えましたね。もちろんスマホ以外にも会場用には大型ビジョンでの設営も準備しました。以前は会場にパソコンを設置しての商談もありましたが、今は会場での商談もパソコンではなくタブレットが増えましたね。

A:環境の変化という点では、スマホなどのデバイスで動画を見る場合のYouTube のシェアはダントツだと思いますが、仕事でもYouTube を使うシーンは増えていますか?

F:そうですね。YouTube にリンクを貼ったグローバルサイトも増えていますが、ライブ配信でYouTube を使うシーンも増えています。今後はYouTube の使い方が企業アピールにも繋がるようになるのかもしれません。

2021年以降も継続する破壊的な変化

Digital Trends調査(2020年第4四半期)、回答数 代理店:2,508 クライアント側の経営陣(バイスプレジデント以上):176
*代理店による回答は、クライアントに対して破壊的であるかどうかを考慮



動画制作の自動化

A:環境の変化と共にAI 化の中で自動化が進んでいると思いますが、Fさんはどのように感じていますか? 当社の場合、以前からナレーションなどは「ロボット音声」でMock-upをお客様に確認して貰っています。このロボット音声技術はこの2 〜3 年で大きく飛躍していて「声フォント」なるものも登場しましたね。

F:そうですね。ナレーションは以前ほど予算もとれなくなり、スタジオ収録での時間とコストはネックになっていますね。ナレーションに限らず、動画の編集ソフトもビギナーでもそこそこの作品が作れる時代になって、私たちの役割も変化していますね。

A:なるほど・・・最近当社では動画制作の自動化にも取り組んでいます。もちろんクリエイティブ要素の多い動画への転用は無理ですが、ある程度の品質で大量のテキストを入れなければならない作品の場合は、動画制作を自動化することで、品質と工程とコストの問題を解決する可能性は大いにあると感じています。

F:当社ではまだ、自動化には取り組んではいませんが大いに興味はあります。最近ではiPhone13 のCM で『ハリウッドをポケットの中に』のキャッチコピーで映画のような撮影が可能になるシネマティックモードなどが話題になっていますね。誰でもプロ並みの映像撮影と編集が可能になっている今、あーと・わーくすさんが、自動化に取り組むきっかけは何だったのでしょうか?

動画制作の自動化

https://www.apple.com/shop/buy-iphone

A:当社のお客様である大手の保険会社様から、『制作会社の手が足りないので協力してほしい』と言われて打合せの場でお話を聞かせて戴きました。いろいろ話を伺うといくつかの問題点が見えてきました。問題点のひとつはもちろん予算になりますが、顧客視点に立って考えた場合の問題は時間です。一般的な動画制作の工程では、顧客から原稿を戴き制作着手してから納品までの間に数回の校正(チェック)を繰り返します。多くの発注者は日常の業務時間を割いて、動画のための資料を用意したり、試写ムービーのチェックを繰り返します。この時間が果たして本当に必要な時間なのか、無駄な時間になっているのではないだろうか?そう考えた時、社内資料から自動で動画が作れる仕組みが必要なのではないか。と考えました。

F:素晴らしい。自動化が進むと我々の仕事が減ってしまうので。何とも言いがたいですが、お客様には感謝されたのではないですか?

A:はい、自動化ツールを提供させて戴いたお客様はそれまで全国100 以上の拠点でほぼ同時に動画制作を我々のような会社に依頼していたのですが、内容はほぼ一緒で中身のテキストが地域毎に差し替わるような内容でした。なので自動化が成立したと思っています。各拠点でそれぞれ内製化できたことで業務時間の大幅な改善につながり、とても喜んで戴けました。もちろん、自動化ツールですべて解決する訳ではありません。クリエイティブ要素の強いオープニング映像などは映像クリエイターの力が必要で、これらについてはこれからも必要と考えています。

F:なるほど。これから進むべき道を考えるよいお話を聞かせて戴けました。

パワーとスピード

https://sports.nhk.or.jp/olympic/
https://sports.nhk.or.jp/paralympic/



動画制作の可能性

A:2020 東京オリンピック、パラリンピックが終わって随分経ちますが、今回のオリンピックでの映像サービスはいろいろな実験や取り組みがありましたね。

F:そうですね。テレビ放映では制約も多くできないことも沢山ありますが、WEB配信では比較的制約も少ないようで、いろいろな取り組みがありましたね。例えばNHKオンラインでは、その競技がメジャーなものか、マイナーのものかにかかわらず、様々な競技を取り上げいろいろな視点から編集していました。特に私が興味を持ったのは「空手」です。テレビ映像では表現できない比較映像を作ることで、視聴者がより深く、より興味の湧く映像として楽しめるようになっていたと感じています。

A:なるほど、今回のオリンピック、パラリンピックでは無観客だったからこそ、オンラインでの表現の可能性をいつも以上に追い求めることができたのかもしれませんね。今日は忙しい中、貴重なお話を聞かせて戴きありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

Written by 1k.Tomizawa

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